箱根駅伝・・感謝の走りをしよう・・
今年の箱根駅伝では、総合2位に終わりましたが、2年前、出場も危ぶまれる窮地に陥ったチームを、見事優勝に導いた、東洋大学のスカウト兼コーチ、佐藤氏が昨年書かれた随想をご紹介します。
ゴール後、出場した選手を含め、その場にいた部員全員が、コースに向かって一礼した―。
そのことを優勝記者会見で、記者の方に聞かされた時、胸がいっぱいになる思いでした。
優勝したことはもちろん嬉しかった。しかし選手たちの行動はそれ以上感激であり、今までこの仕事をやってきて良かった、と思わせてくれるものでした。
私が現在、スカウト兼コーチを務める東洋大学陸上競技部は、平成21年1月3日、第85回箱根駅伝で総合優勝を果たしました。67度目の出場で、初となる王座獲得です。そして22年の箱根駅伝でも、2年連続の総合優勝を果たすことが出来ました。
しかし、21年の箱根駅伝は、選手たちにとって、いつもの箱根ではありませんでした。
その前年の12月、部員が不祥事を起こしたことにより、練習を自粛し、試合に出場できるかどうかさえ分からない状況だったのです。
川島伸次監督も引責辞任。箱根駅伝を目指し、努力を積みかさねてきた選手たちにとって、辛い日々だったことでしょう。
選手たちは決して高校時代から注目されていたエリートではありませんでした。
そういった無名の学生を集め、埼玉県川越市の合宿所で共同生活をし、毎朝5時15分にはグラウンドに集まって練習を始めます。朝が早いのは、1限目の授業に合わせるためなのですが、このような厳しい生活のリズムで練習するからこそ、余計なことを考えず、目的にまい進する事が出来るのです。
選手たちは、このように練習と勉学を両立させつつ、箱根駅伝での優勝を合言葉に精進してきました。
ですから、それが無になるかもしれないという状況になった時、選手たちのショックは如何ほどのものだったのでしょう。しかし、有難いことに、関東学生陸上競技連盟から、「出場制限しない」との裁定が下りました。練習らしい練習が出来たのは、ほんの10日間程度でした。しかし、私自身が焦っては、選手たちにもそれが伝わってしまう為、焦らずにとにかく、やれる範囲で頑張ろうと思いました。
そして、それまでの私たちの合言葉だった「優勝」は一切口にせず、代わりとなったのが「感謝の走りをしよう」でした。